「FXで法人化を考えているが、実際どのようなメリットがあるのかわからない」「個人と法人のどちらを選ぶべきか知りたい」と悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
FXで法人化した場合、節税効果や損益通算といったメリットがあります。
今回は、FXで法人化する方法やメリット・デメリット、注意点などについて詳しく解説します。
「FXの利益が増えてきたので法人化を検討している」「自分が法人化すべきか分からないので教えてほしい」という方は、ぜひ記事を参考にしてください。
FXで法人化する場合は「株式会社」と「合同会社」から選べる
FXに限らず、会社設立をする際の主な選択肢として「株式会社」と「合同会社」の2通りがあります。
それぞれについて、設立方法を解説します。
株式会社の設立方法
FXトレーダーが株式会社を設立する際のステップを簡単に説明します。
まず、会社名や事業目的、資本金額などの基本情報を決定しましょう。その後、代表者印、個人の実印、印鑑証明書など必要な書類を準備します。
次に、会社の組織や運営に関する規則を定めた定款を作成し、公証役場で認証を受けます。定款には、目的、商号、本店の所在地、資本金額、発起人の情報などの記載が必要です。
最後に、資本金を発起人の口座に払い込み、法務局で設立登記を申請して完了です。
合同会社の設立方法
合同会社(LLC)は、出資者がそのまま経営者となる「所有」と「経営」が同じ会社形態です。
FXトレーダーが合同会社を設立する場合、基本的な流れは株式会社を設立する際と同じです。
違いは定款の公証役場での認証が不要なことであり、これに伴う手間や費用を省けます。
FXで法人化するメリット9選
ここでは、FXで法人化するメリットについて、以下の9項目を紹介します。
- 最大10年間繰越控除を利用できる
- 損益通算が可能である
- 欠損金の繰戻しによる還付制度を利用できる
- 厚生年金に加入できる
- 節税しやすい
- 会社代表としての肩書を手に入れられる
- 決算期を自分で設定できる
- 複数人で運用できる
- 法人用のレバレッジで取引できる
それぞれについて、内容を見ていきましょう。
注意:税率のみで判断するとメリットはほぼない
FXトレーダーが法人化を検討する際、単に税率だけで判断すると、メリットはほぼないといえます。
個人でのFX取引では、一律20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税率が適用されます。
これに対し、法人化すると、資本金1億円以下の法人の場合、800万円までの利益には15%、800万円を超える部分には23.20%の法人税がかかります。さらに、地方法人税や法人事業税などが加わり、税負担は30%程度になることが多いです。
また、役員報酬の支払いには所得税がかかり、累進課税のため高額所得者ほど税率が上がります。結果として、法人化に伴う税負担が個人よりも高くなることが多く、税率のみで判断するのはおすすめできません。
法人化のメリットについては、税率以外の要因も含めて総合的に考慮する必要があります。
最大10年間繰越控除を利用できる
FXトレーダーが法人化することで享受できる大きなメリットの一つが、損失の繰越控除が最大10年間可能になることです。
個人事業主の場合、先物取引による損失は最長で3年間繰り越すことができますが、法人の場合は条件を満たせば最大で10年間の繰り越しが可能です。これにより、もし大きな損失が発生しても、その損失を今後10年間の利益から差し引くことができるため、税負担を大幅に軽減できます。
特に、利益が安定しない場合や、初期投資で大きな損失を出した場合には、この制度が有利に働くことがあります。結果として、法人化により長期的な税務戦略が立てやすくなり、資金繰りの安定化にも寄与するでしょう。
損益通算が可能である
法人化の大きな税務上の利点として、損益通算が可能である点が挙げられます。個人でのFX取引の利益は「雑所得」として扱われ、他の所得とは分離して課税されます。このため、FX取引で得た利益と他の投資や事業からの損失を合算することはできません。
例えば、株式取引で500万円の損失が発生し、FX取引で500万円の利益を得た場合、個人であればFXの利益に対して税金がかかります(税率約20%の場合、100万円の税金が発生)。
一方、法人の場合は、全ての事業や投資の損益を通算することが可能です。つまり、FX取引の利益と株式取引の損失を合算し、最終的な利益をゼロにすることで法人税の負担を避けられます。
この損益通算により、税金の負担を大幅に軽減できる場合があり、特に複数の事業や投資を行っている場合には、法人化するメリットが大きいといえます。法人化を検討する際は、この損益通算のメリットを活用することで、より効果的な税務戦略を立てられるでしょう。
欠損金の繰戻しによる還付制度を利用できる
法人化することで、資本金1億円以下の一定の法人には「欠損金の繰戻しによる還付」制度を利用できるメリットがあります。この制度を活用すると、前期に黒字で法人税を納付したにもかかわらず、今期に赤字が発生した場合に、前期に支払った法人税の一部を還付してもらうことが可能です。
例えば、前期に3,000万円の利益を上げ、法人税を納付した後、今期に1,000万円の損失が発生したとします。この場合、法人税の還付を受けることで、前期に支払った法人税の一部が戻ってくる仕組みです。
この還付制度により、赤字の年でも前期に支払った税金を取り戻し、資金繰りの改善に繋られます。法人化を検討する際には、この制度を活用することで、経済的なリスクを軽減し、資金面での安定性を確保しやすいでしょう。
厚生年金に加入できる
法人を設立し、役員報酬を支給する場合、社会保険への加入が義務付けられます。これにより、個人事業主が加入する「国民年金」に代わり、「厚生年金」に加入できます。
厚生年金は、国民年金に比べて将来支給される年金額が多くなるため、より安定した老後の備えが増えることは大きなメリットといえます。
節税しやすい
法人化することで、法人は個人とは別の法的な存在となり、経費として認められる範囲が広がります。これにより、個人事業主に比べて節税対策がより柔軟に行えるようになります。
例えば、法人の場合、事業に関連する経費が広範囲にわたり認められるため、経費計上の幅が広がります。これは、法人の運営に必要な支出が経費として認められることで、課税所得を減らし、結果として税負担を軽減できるからです。
会社代表としての肩書を手に入れられる
法人を設立すると、代表者としての肩書きを得られます。株式会社の場合は「代表取締役」、合同会社の場合は「代表社員」として登録されます。この肩書きは、名刺や公式文書に記載でき、ビジネスシーンでの信頼性や印象が向上します。
代表取締役や代表社員という肩書きは、会社の顔としての役割を果たし、取引先や顧客に対しての信頼感を高める要素となります。個人事業主に比べ、法人の代表者は正式な企業の代表として認識されるため、ビジネス交渉や商談において、より信頼性の高い印象を与えられるでしょう。
決算期を自分で設定できる
法人化することで、決算期を自由に設定できるメリットがあります。個人事業主の場合、課税期間は毎年1月1日から12月31日と決まっているため、決算や税務申告のタイミングが固定されています。
しかし、法人は事業年度(課税期間)を任意で設定できるため、たとえば5月1日から翌年4月30日までの期間を決算期として設定可能です。
この自由度の高い決算期の設定は、事業の繁忙期や業務の負荷に応じた柔軟な対応を可能にします。例えば、繁忙期と決算期をずらすことで業務のピークを回避し、事務処理の負担を分散できるでしょう。
これにより、効率的に業務を運営し、経営資源を有効活用できるかもしれません。
複数人で運用できる
個人の口座での投資は、全ての取引や判断がその個人に依存します。そのため、自動売買を設定する場合も、自分の判断で設定したプログラムに基づいて取引を行い、その結果の損益も全てその個人のものでしかありません。
このため、複数人での共同作業や分業体制を構築するのは難しく、全員が同じ目標に向かって協力するのは難しいでしょう。
しかし、法人名義の口座を開設すれば、取引や運用の責任を複数の担当者で分担することが可能です。これにより、複数人での効率的な運用が実現し、各メンバーの専門性を活かしながら、共同で利益を得られるようになります。
法人用のレバレッジで取引できる
FX取引において、個人の場合は、法律により最大レバレッジが25倍に制限されています。この制限はリスク管理の観点から設定されていますが、法人の場合はこの制限が一般的に緩和されることが多く、より高いレバレッジで取引が可能です。
法人名義で取引を行うことで高いレバレッジを利用できるため、投資資金を効率的に活用するチャンスが増えます。高いレバレッジを活用することで、少ない資金で大きな取引ができるため、短期間での利益拡大が期待できるでしょう。
ただし、レバレッジが高い分リスクも大きくなるため、慎重な運用が求められる点に注意してください。
FXで法人化するデメリット3選
反対に、FXで法人化するデメリットとして、以下の3点があります。
- 自由にお金を使えるわけではない
- 会社設立や運営にリソースが必要
- 一度設立した法人は解散手続きが面倒である
それぞれについて解説します。
自由にお金を使えるわけではない
法人化して利益が出た場合、個人にそのまま資金を移せるわけではありません。法人の収益を個人の生活費やその他の用途に使うためには、主に役員報酬として受け取る必要があります。
この役員報酬には、毎月一定額を支給するというルールがあるため、利益が出たからといってすぐに自由に使うことはできない点に注意しましょう。
また、役員報酬は法人の損金として計上するため、税務上の制約や申告義務も存在します。これにより、法人の利益を単純に個人の自由な資金として利用することは難しいです。
法人化を選択する際には、資金の流動性に対する制約を理解した上で、計画的な資金管理が欠かせません。
会社設立や運営にリソースが必要
法人を設立するためには、まず会社設立手続きを行う必要があります。例えば、合同会社の場合、登録免許税として最低6万円が、株式会社の場合は登録免許税と定款認証手数料を合わせて約20万円が必要です。
これに加えて、設立後は税務や社会保険の手続き、役員報酬の計算など、事務処理の作業が増えます。
このように、法人運営には、個人事業主に比べて多くのリソースが必要です。自分でこれらの手続きを行う場合、かなりの時間と労力が求められます。専門家にアウトソースする方法もありますが、その場合もコストが発生します。
さらに、利益が出ない年でも法人住民税(年間約7万円)が発生するため、安定的な利益が確保できないと、追加の負担が生じることにも注意しましょう。
一度設立した法人は解散手続きが面倒である
法人を解散する場合、煩雑な手続きが必要です。
まず、法務局で解散登記を行い、税務署に解散届出を提出します。その後、解散公告や債権者への通知も必要です。公告期間は最低2ヶ月以上かかるため、解散手続き全体が2ヶ月以上にわたることが一般的です。
また、解散手続きには登記費用や公告費用が発生します。さらに、解散後には清算結了登記や税務署への清算届出も必要で、これらの手続きには追加の時間と費用がかかります。
このように、一度法人を設立するとその解散にはかなりの手間が伴うため、慎重に検討する必要があります。
まとめ
今回は、FXで法人化する際のメリットとデメリットについて詳しく解説しました。
「法人化すると節税できる」という意見を聞いたことがあるかもしれませんが、単純な税率だけでいうと、法人化したほうが負担が大きくなる可能性があるため、注意が必要です。また、一度法人化すると気軽に事業をたたむことは難しいため、慎重に検討しましょう。
記事で紹介した法人化のメリットとデメリットを参考にしながら、本当に法人化すべきかどうか、法人化するメリットはあるかどうかを考えてみるのがおすすめです。