「FX取引を個人事業主として行う方法を知りたい」「個人事業主としてのFX取引のメリットやデメリットを理解したい」という方は多いのではないでしょうか。
今回は、FXトレーダーは個人事業主になれないのか、そもそも個人事業主になるメリットはあるのかどうかについて解説します。
FXトレーダーができる節税対策についても解説しますので、収入の申告方法について悩んでいる方はぜひ最後までご覧ください。
FXトレーダーは個人事業主になれない?
FXの取引によって得た所得は、一般的に雑所得に該当します。
この事実は裁判所の判例からも明らかであり、議論の余地はありません。そのため、FXを個人事業として扱うのは極めて難しいでしょう。
なぜなら、事業所得と雑所得には税金の計算方法に違いがあるからです。
事業所得と雑所得の共通点・違い
ここでは、事業所得と雑所得の共通点や違いについて確認しておきましょう。
共通点
事業所得と雑所得の共通点について、多くの人が誤解している点があります。一般的には、事業所得の方が経費の範囲が広く、税金を節税できるという説明がなされていますが、これは正確ではありません。
事実として、青色申告でなければ認められない給与や少額資産に関しては、事業所得の方が有利です。しかし、家賃や通信費、光熱費などの必要経費については、事業所得・雑所得における捉え方は変わりません。
重要なのは「支出が事業のために直接必要であるかどうか」です。必要経費とは、あくまで事業の運営や維持に直結する支出であり、事業所得の場合のみ広く認められるというわけではありません。そのため、事業所得と雑所得の間には、必要経費に関する共通点が存在します。
違い
事業所得と雑所得の違いとして、まず事業所得では青色申告が認められますが、雑所得は青色申告の対象外となります。
事業所得の場合、青色申告を行うことで多くの税制上の特典を享受できます。例えば、青色申告特別控除では最大65万円の控除が認められる、発生した損失を他の所得と損益通算して税金を還付してもらう、といったことが可能です。
これに対し、雑所得の場合は損益通算が認められません。専業トレーダーの場合、事業所得としての申告できる場合がありますが、副業としてFX取引を行う場合、原則として雑所得としての申告が一般的です。
雑所得としての取引から生じた損失は雑所得の中でしか損益通算できず、給与所得など他の所得とのマイナス通算はできません。したがって、事業所得としての取引による損失は税金還付の対象となり得る一方、雑所得としての取引からの損失では税金の還付は受けられないため、トレーダーの税金負担に大きな影響を与える可能性があります。
FXで確定申告が必要な4つのケース
FXで確定申告が必要なケースとして、以下の4つがあります。
- 給与所得とは別に、FXの年間所得が20万円を超える場合
- 給与所得とFXによる所得合計が年間20万円を超える場合
- 扶養に入っておりFXを含めて所得が年間48万円を超える場合
- FXの利益を問わず年収が2,000万円を超えている場合
それぞれについて解説します。
給与所得とは別に、FXの年間所得が20万円を超える場合
給与所得とは別で、FXによる年間所得が20万円を超える場合、年末調整を受けていても確定申告が必要です。FXでの所得は利益から必要経費を差し引いた額が対象であり、20万円を超えると自己申告が求められます。
ただし、利益が20万円を下回る場合や、経費を差し引いて20万円未満になる場合は確定申告は不要です。
給与所得とFXによる所得合計が年間20万円を超える場合
給与所得とFXによる所得の合計が年間20万円を超える場合、給与所得とFXの所得を合算して20万円を超えると、確定申告が必要です。たとえば、給与が12万円でFXでの所得が9万円の場合、合計所得は21万円で確定申告の対象となります。
ただし、給与所得とFXの合計が20万円以下で、所得控除額や特定の条件に該当する場合は確定申告は不要です。
扶養に入っておりFXを含めて所得が年間48万円を超える場合
自身が扶養親族に該当し、年間で48万円を超える所得を得ている場合、確定申告が必要です。48万円の基準は「扶養親族の該当基準を満たすかどうか」です。
FXを含む各所得が合計48万円を超える場合、扶養から外れて自己申告する必要があります。所得が48万円を超えているか否かは、FXを含む各所得の年間合計額に注目する必要があります。
例えば、FXでの所得が年間7万円で、アルバイトでの所得が年間45万円ある場合、合計所得は52万円となり、扶養から外れて申告しなければなりません。
FXの利益を問わず年収が2,000万円を超えている場合
年収が2,000万円を超えている個人は、FXの利益の有無に関わらず、確定申告を個人で行う必要があります。
個人事業主が海外FXで利益を得ると課税額が増える
一般的に、個人事業主は税金負担が軽くなると考えられがちです。しかし、海外FXでの取引は特殊なケースであり、海外FXでの利益には会社員と同じように5〜45%の累進課税税率が適用されます。なお、この税率は所得金額によって段階的に上がっていきます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁
たとえば、1,000円から1,949,000円までの所得には5%の税率が、18,000,000円以上の所得には45%の税率が適用されます。
このように、国内FXの一律の税率(住民税・復興特別所得税合わせて20.315%)とは異なるため、海外FXで多額の利益を得た場合、他の所得と合算して支払う税金額も相応に増加します。この点を十分に理解しておくことが欠かせません。
海外FXにおける節税は法人化がおすすめ
年間数百万円以上の所得を得ている海外FXトレーダーは、個人事業主よりも法人化を検討する価値があります。法人化することで、法定実効税率が33.58%になり税金を抑えられるのは大きな魅力です。
これは、所得税と住民税を合わせた最大税率が55%になる個人と比べると大きな差があります。さらに、法人化することで役員報酬や退職金などの経費を計上することができ、繰越控除も使えるため、節税の幅が広がるでしょう。
ただし、法人化には、赤字でも税理士費用や税金の支払いが必要になるなどのデメリットもあります。また、手続きが複雑である点も考慮すべきです。
とはいえ、海外FXで多額の利益を得ている人であれば、法人化によるメリットが大きいため、状況に応じて法人化を検討するのがおすすめです。
FXトレーダーが取り組める節税対策
FXによる収入は事業所得として認められませんが、そのほかにFXトレーダーが取り組める節税対策として、以下が挙げられます。
- 控除の申告
- 経費の計上
- 他に発生した雑所得との損益通算
それぞれについて解説します。
控除の申告
FXトレーダーが取り組める節税対策の一環として、控除の申告は重要な要素です。
個人事業主としての収入を申告する際に、さまざまな控除を利用できます。具体的には、社会保険料控除や生命保険料控除、配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除、住宅ローン控除、iDeCo、医療費控除、ふるさと納税(寄付金控除)などが挙げられます。
これらの控除を活用することで、本業の収入から一定額を差し引いた額を所得として申告できます。たとえば、100万円分の控除を受けることができれば、本業の所得からその分を差し引いて計上できます。
その結果、所得税や住民税などの税金負担も抑えられるため、控除の申告は、節税の重要な手段の一つです。
経費の計上
経費の計上についても、海外FXトレーダーにとって重要な節税手段です。FXに取り組む上で発生した関連費用は、経費として計上できます。
代表的な経費として、以下が挙げられます。
FXトレーダーが計上できる経費
- EA(自動売買プログラム)やインジケーターの購入費
- 他のトレーダーと情報交換する際の会合費
- スマートフォンやパソコンの購入費
- FX関連書籍やメールマガジンの購入費用
- インターネット回線の費用
- ペンやノートなどの消耗品費
- 取引手数料(ただし、スプレッドは除く)
- トレードルームの賃貸料
- FX関連セミナーへの参加費
- 仮想プライベートサーバー(VPS)の月額費用
ただし、プライベートとの併用で使う場合、パソコン代やトレードルームの家賃などは、利用する割合に応じて経費計上する必要があります。経費の計上について不明点がある場合は、税理士や税務署に相談しましょう。
経費の計上を適切に行うことで、海外FXトレーダーは税金を節約し、収支をより健全なものにすることができます。
他に発生した雑所得との損益通算
副業で発生した雑所得との損益通算は、個人事業主にとって重要な節税手段です。海外FX以外の副業で得た所得(例:仮想通貨取引やアフィリエイト収入)についても、海外FXの所得と損益を通算することができます。
たとえば、海外FXで800万円の収入があり、副業のアフィリエイトで50万円の損失が生じた場合、損益通算によって税金の負担を軽減できます。この場合、800万円の収入から50万円の損失を差し引いて、税金の計算を行います。つまり、収入から損失を差し引いた金額750万円が実際の課税対象所得となります。
また、他の海外FX業者の取引による損益についても、同じように損益通算が可能です。副業で得た所得と海外FXの所得を通算することで、税金を節約し、効果的な資産運用が可能となります。
FXで確定申告をしてない人が多いって本当?バレる理由は?
FXで確定申告を怠る人もいますが、税務署にバレる理由はいくつかあります。
まず、FX会社は取引履歴やデータを税務署に報告し、その記録はマイナンバーと関連付けられています。そのため、税務署はFXトレーダーの利益を容易に確認できます。また、税務署は同じ手法で確定申告を行っているかを調査し、納税していない場合は即座に判明できる仕組みです。
さらに、税務署は脱税行為を見逃すわけではありません。税務署は密かに監視を行い、脱税者を把握していますが、時間をかけて調査を行うことがあります。これは、税金をより多く徴収するためです。
脱税は延滞税や無申告加算税、さらにはたちの悪い所得隠しといった厳しい罰則を課す前に、時間をかけて調査を行い、回収可能な税金を最大限に取り戻すことを目指しています。自分の税金をしっかり納めることは、個人の責任であるため、ペナルティを回避するためにも確定申告を怠らずに行うことが欠かせません。
FXトレーダーが開業届を出して個人事業主になる際の注意点
FXトレーダーが開業届を提出して個人事業主になる際には、いくつかの注意点があります。
まず、開業届を提出したからといって、必ずしもその所得を事業所得として申告できるわけではありません。開業届を提出すると、税務署で一時的に受理され、控えが受領印を押されて返却されますが、この段階で安心せず、その後の申告が重要です。
確定申告書を提出しても、形式的な受理のみで、内容に疑義が生じれば税務調査が行われます。この調査で事業所得としての申告が認められない場合、追加の税金やペナルティが課せられるため注意しましょう。
したがって、開業届や確定申告書を正しく作成するだけではなく、事業所得としての申告が認められるような証拠や書類を準備することが重要です。税務署が事業所得としての申告を認めるためには、活動実態や関連する証拠を明確に示すことが求められます。したがって、開業届を提出する際には、慎重に準備をし、正確な情報を提供することが欠かせません。
まとめ
今回は、FXトレーダーが個人事業主になるべきかどうか、個人事業主となった場合の収入の取り扱いや申告方法について解説しました。国内FX・海外FXによっても収入の取り扱いが異なりますが、前提としてFXによる収入が事業所得として認められる可能性は低いといえます。
FXトレーダーはこの特性を理解した上で、法人化を検討したり、可能な範囲で節税対策を行ったりすることが欠かせません。